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TOEIC、その歴史と理念 (2016/10/19)

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■TOEICプログラムの開発
国際コミュニケーション英語能力テスト、Test of English for International Communicationは、通称TOEIC(トーイック)と呼ばれ、英語によるコミュニケーション能力を測定するテストとして、世界約150ヶ国で実施されています。1970年代、アメリカの非営利団体Educational Testing Service、ETSによって開発されました。
ETSは、TOEICの他にもTOEFL(Test of English as a Foreign Language、トーフル、英語圏の大学への留学または研究希望者を対象とした英語能力測定テスト)、SAT(Scholastic Assessment Test、全米大学入学共通試験)、GRE(Graduate Record Examination、大学院入学共通試験)など、数多くのテストプログラム開発を手がける世界最大の非営利テスト開発機関です。1947年に設立され、公正で妥当な評価、リサーチ、関連サービスの提供を通じて、教育の質と公平性の向上に貢献してきました。
元来TOEICプログラムは、世界経済が激動する中、海外進出が進む70年代の日本において、日本人の英語によるコミュニケーション能力の育成を急務と考えた北岡靖男氏によって発案されたものです。「日本のビジネスパーソンには、これから英語が必須となる。そのためには本格的な英語の試験を作らなければならない」と考えた北岡の説得により、ETSの開発プロジェクトは始動しました。ETSは、「TOEIC is a brainchild of Yasuo Kitaoka」と表現しています。北岡を含むプロジェクトメンバーは、ETSとともに2年の歳月をかけ、TOEICプログラムを作り上げました。
1979年、TOEIC運営委員会が設置され、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡で第一回目のTOEICテストが行われました。この時の受験者は3,000人余りと、始まりは至って小規模なものでした。

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■ノンネイティヴのために
TOEICの歴史は、非英語圏である日本が国際社会でビジネスを行い、経済成長を遂げてきた歴史と重なっています。それは、ノンネイティヴがネイティヴに対峙し、熾烈な国際競争をくぐり抜けてきた歴史でもあります。
言語は政治的に強い意味を持っています。英語を母語とする英語圏の国は、英語がスタンダードとされる社会において圧倒的なアドバンテージを誇り、自国のローカルルールをグローバル・スタンダードとして用いることができます。国際的な学会での母語によるスピーチ、世界中で流通している母語で書かれたテキストやマニュアル。いわばシード権を所持しているようなもので、国際競争が繰り広げられる中、英語圏の国は自国に有利な戦略を容易に展開することができました。
非英語圏の国にとって、これは甚だ不利な状況でした。TOEIC発案者の情熱も、圧倒的に不利な日本の状況を打開するためのものだったといえます。
現在、TOEICは世界約150ヶ国で実施され、年間約700万人に及ぶ受験者を擁しています。創成から30数年、企業活動のグローバル化とともに、TOEICもグローバル・スタンダードとして定着してきました。30年余りの歴史の中で、TOEICがもたらしたものは、国際的な共通言語として機能する英語の基準でした。
英語が世界共通語となり、非英語圏の民族が自在に英語を操るようになったことで、ネイティヴのアドバンテージは失効しました。TOEICが目指した、国際社会で通用する英語力の育成プロジェクトは華開き、世界中のノンネイティヴが英語を駆使する時代が始まったのです。

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■英語の汎用性
今や英語を扱う人の大半はノンネイティヴとなりました。英語は英語圏の母語としてだけではなく、国際的なビジネス言語としての役割を担っています。オーセンティックアメリカンの英語と、インドやフィリピンの英語は異なります。オーセンティックアメリカン・イングリッシュを範としない英語には、その汎用性と可能性が強く期待できます。
BRICs(Brazil、Russia、India、Chinaの英語頭文字を繋げた造語。これにSouth Africaが加わるとする説も)の例をあげるまでもなく、著しい経済発展を遂げている非英語圏の国は増加しています。ビジネスの舞台は英語圏に限らず、むしろ非英語圏にこそ大きく広がっています。
17世紀フランスの劇作家モリエールの著作に、「町人貴族」という喜劇作品があります。この作品には、フランス語、イタリア語、スペイン語などが用いられている他、「サビール語」が登場します。サビール語はイタリア語をベースに、アラビア語、ペルシャ語、ギリシャ語、フランス語などの単語や表現が混交したもので、当時、地中海地域の交易用に用いられました。サビール語のように、共通の母語を持たない民族間がコミュニケーションを行う際に使われる言語を、「リンガ・フランカ」といいます。英語と現地の言語が混合した接触言語である「ピジン語」や、ピジン語が地元に根付き、母語として話されるようになった「クレオール語」などもリンガ・フランカの一種です。
共通の母語を持たないノンネイティヴのコミュニケーションに用いられる言語、そんなリンガ・フランカの概念は、TOEICが提唱する英語力の核心を捉えています。